
はじめに
不動産を所有されている高齢オーナー様にとって、「もし認知症になったら、所有している物件はどうなるのか?」という不安は、決して他人事ではありません。
実は、認知症を発症すると、ご本人名義の不動産の売却や賃貸契約、大規模修繕など、重要な判断を伴う手続きがすべてストップしてしまいます。これを「資産凍結」と呼びます。
そんな万が一の事態に備える有効な対策として、近年注目を集めているのが**「家族信託」**です。
今回は、不動産オーナー様にこそ知っていただきたい家族信託の仕組みやメリット、手続きの流れについて、わかりやすく解説いたします。
家族信託とは?
家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託し、管理・運用してもらう仕組みのことです。
具体的には、以下の3者で構成されます:
- 委託者(いたくしゃ):財産を託す人(不動産オーナーご本人)
- 受託者(じゅたくしゃ):財産を管理・運用する人(信頼できるご家族)
- 受益者(じゅえきしゃ):財産から生じる利益を受け取る人(多くの場合、委託者本人)
家族信託を設定すると、不動産の名義は受託者に移りますが、賃貸収入などの利益は引き続き委託者(オーナー様)が受け取ることができます。
なぜ今、家族信託が必要なのか?
1. 認知症による「資産凍結」のリスク
日本は超高齢社会を迎えており、認知症患者数は年々増加しています。認知症を発症すると、法律上「判断能力がない」とみなされ、以下のようなことができなくなります:
- 不動産の売却
- 賃貸借契約の締結・更新
- 大規模修繕やリフォームの契約
- ローンの借り入れ
- 預金の引き出し(場合によっては)
その結果、収益物件の管理が滞り、物件価値の下落や家賃収入の減少につながる可能性があります。
2. 成年後見制度の限界
認知症対策として「成年後見制度」がありますが、不動産オーナーにとっては以下のような課題があります:
- 不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要
- 投資や資産運用が原則として認められない
- 後見人への報酬が継続的に発生
- 柔軟な財産管理が難しい
これに対し、家族信託は柔軟性が高く、オーナー様の意向を反映した管理が可能です。
家族信託の5つのメリット
メリット1:認知症になっても資産凍結を回避できる
家族信託では、受託者(ご家族)が不動産の管理・運用権限を持つため、委託者が認知症になっても、売却・賃貸・修繕などの手続きを滞りなく進めることができます。
メリット2:柔軟な財産管理が可能
成年後見制度とは異なり、信託契約の内容を自由に設計できます。例えば:
- 収益物件の建て替えやリフォーム
- 市場を見ながらのタイミングでの売却
- 新たな不動産への投資
など、オーナー様の意向に沿った積極的な資産運用が可能です。
メリット3:相続対策も同時に実現
信託契約の中で、「委託者が亡くなった後は、この不動産は長男に、この不動産は次男に」といった形で、財産の承継先を明確に指定できます。これにより、相続時のトラブルを未然に防ぐことができます。
メリット4:家庭裁判所の関与が不要
成年後見制度では重要な財産の処分に家庭裁判所の許可が必要ですが、家族信託では裁判所の関与なく、迅速に判断・実行できます。
メリット5:受託者を自由に選べる
信頼できるご家族(お子様など)を受託者として自由に選ぶことができます。不動産経営に理解のある方を選ぶことで、より適切な管理が期待できます。
家族信託のデメリット・注意点
メリットが多い家族信託ですが、以下のような注意点もあります:
デメリット1:初期費用がかかる
家族信託の設定には、専門家(司法書士・弁護士・税理士など)への報酬や公正証書作成費用などがかかります。一般的には50万円~100万円程度が目安です。
デメリット2:受託者の負担
受託者となるご家族には、適切に財産を管理する責任が伴います。定期的な報告や、収支の管理など、一定の手間が発生します。
デメリット3:すべての金融機関が対応しているわけではない
家族信託用の「信託口口座」の開設に対応していない金融機関もあります。事前に確認が必要です。
デメリット4:すでに認知症を発症していると利用できない
家族信託は、委託者に判断能力がある段階で契約する必要があります。元気なうちに準備することが重要です。
家族信託の手続きの流れ
家族信託を始める手続きは、以下のような流れで進みます:
ステップ1:家族会議で目的と内容を話し合う
まず、ご家族で信託の目的や内容について話し合います。誰を受託者にするか、どの財産を信託するか、などを決めます。
ステップ2:専門家に相談
司法書士や弁護士、税理士などの専門家に相談し、具体的な信託スキームを設計します。
ステップ3:信託契約書の作成
専門家のサポートのもと、信託契約書を作成します。公正証書にすることで、法的な信頼性が高まります。
ステップ4:公証役場で公正証書化
契約内容を公正証書にするため、公証役場で手続きを行います。
ステップ5:不動産の名義変更(信託登記)
法務局で、不動産の名義を委託者から受託者へ変更する「信託登記」を行います。
ステップ6:信託口口座の開設
信託財産を管理するための専用口座(信託口口座)を開設します。
ステップ7:信託の開始
すべての手続きが完了したら、受託者による財産管理がスタートします。
費用の目安
家族信託にかかる費用は、以下のような内訳になります:
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 専門家への報酬(コンサルティング・契約書作成) | 30万円~80万円 |
| 公正証書作成手数料 | 10万円~20万円 |
| 信託登記の登録免許税 | 不動産評価額の0.3~0.4% |
| 書類取得費用 | 5,000円~1万円 |
| 合計 | 50万円~100万円程度 |
※信託する財産の額や内容によって変動します。
まとめ:元気なうちに備えることが大切
家族信託は、認知症による資産凍結を防ぎ、大切な不動産を守るための有効な手段です。
特に収益物件をお持ちのオーナー様にとっては、将来の賃貸経営を継続し、物件価値を維持するために、早めの対策が重要です。
「まだ大丈夫」と思っているうちに準備を始めることが、ご家族の安心と財産の保全につながります。
当社のサポート体制
当社では、不動産オーナー様の家族信託に関するご相談を承っております。提携する司法書士・税理士とも連携し、スムーズな手続きをサポートいたします。
「家族信託について詳しく知りたい」「うちの場合はどうすればいいのか?」など、どんなことでもお気軽にご相談ください。
まずは無料相談から、お待ちしております。








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